結論:スキルシート文化の「盛り」は、業界全体の信頼コストを上げている
SES(システムエンジニアリングサービス)業界でエンジニアをしていると、一度は耳にするんじゃないでしょうか。
「スキルシートは多少盛っても大丈夫」「実務経験ゼロでも研修で触ったなら書いていい」——そういう空気、ありますよね。
私はこれ、「業界全体の信頼コストを無駄に上げている行為」 だと思っています。
経歴を実態以上に見せることで短期的には案件に入りやすくなる。でも現場でのミスマッチが起き、エンジニアも発注側も疲弊する。そのしわ寄せは、正直に書いているエンジニアにも回ってきます。
今回はこの構造を分解して、「じゃあどうするか」まで考えてみます。
根拠:経歴詐称・スキルミスマッチの実態
採用・契約の現場で何が起きているか
IPAが毎年発行する「IT人材白書」や「DX白書」では、IT人材のスキル可視化・評価の難しさが繰り返し指摘されています。
とくにスキルの自己申告と実態のギャップは、多重下請け構造が深い現場ほど拡大しやすいと言われています。
厚生労働省が公表している労働市場関連の調査でも、職歴・スキルの虚偽申告は「採用時のトラブル原因」として上位に挙がっています。
スキルシートが「盛られやすい」構造的な理由
SES特有の商流を整理すると、こうなります。
| 立場 | インセンティブ | 結果 |
|---|---|---|
| エンジニア本人 | 単価・案件の選択肢を増やしたい | スキルを多めに記載 |
| 営業(SES会社) | 成約率を上げたい | 「少し盛っても」と黙認・推奨 |
| 発注側企業 | 即戦力がほしい | スキルを精査せず採用 |
つまり三者それぞれに「盛りを許容する動機」 が存在します。これは個人の倫理の問題というより、構造的な問題なんですよね。
実際の被害は小さくない
経済産業省の調査では、ITプロジェクトの失敗要因として「要員スキルの不足・ミスマッチ」が繰り返し挙げられています。
「概算でも数十万〜数百万円規模の手戻りコストが発生する」と言われており、現場の疲弊も含めると、業界全体の損失は相当なものと推測されます。
反論への先回り:「スキルシートを盛るのは自衛手段」という見方
ここで正直に言っておきます。「盛るな」という意見への反論も、一定の説得力があります。
たとえばこういう声はよく聞きます。
「実務で使っていなくても、独学でしっかり勉強した技術を書いてはいけないのか」
「発注側が無茶な要件を出すから、多少盛らないと案件に入れない」
「正直に書いたら単価が下がって生活できない」
これらは**「盛らざるを得ない構造を放置してきた側にも責任がある」** という指摘として、無視できません。
発注側が「経験3年以上・即戦力のみ」という条件を乱発しながら、実態は雑用に近い作業をさせるケースも少なくない。そこにはミスマッチの原因が双方にあります。
ただ、だからといって虚偽の経歴を記載することは、法的にも倫理的にも正当化できません。
民法上の詐欺・錯誤の問題になり得ますし、労働契約の解除事由にもなります。「業界の慣行だから」は免責にならないんです。
「自衛のために盛る」という気持ちは理解できる。でも、それは正しい問題の解き方じゃない。
補足:では、どう健全化するか
エンジニア側にできること
- 「業務経験」と「学習経験」を分けて書く
- 「実務未経験だが個人開発で〇〇を構築」は正直に書いたほうが信頼される
- 経験年数より「何をできるか」を具体的に書く
- 「Javaを3年」より「Spring Bootで〇〇規模のAPIを設計・実装」のほうが伝わる
- ポートフォリオ・GitHubで実力を可視化する
- スキルシートだけに頼らない証明手段を持つ
SES会社・営業側にできること
- スキルシートの記載基準を社内で明文化する
- 「少し盛って」という文化を上が率先してやめる
- ミスマッチが起きたときに営業が責任を取る仕組みを作る
発注側にできること
- スキルシートだけで判断せず、技術面接・コーディングテストを組み合わせる
- 「即戦力のみ」という条件を現実的に見直す
- ミスマッチが起きたときに「騙された」で終わらせず、選定プロセスを改善する
最後に:あなたのスキルシート、正直に書けていますか?
「盛るのが当たり前」という空気を変えるには、一人ひとりが「自分は正直に書く」と決めることが出発点 だと思います。
業界の構造を変えるのは難しい。でも、自分のスキルシートを正直に書くことは今日からできます。
正直に書いたほうが、ミスマッチが減り、自分に合った現場に入りやすくなる。長期的には、そっちのほうが絶対にキャリアにとってプラスです。
あなたは今のスキルシート、自信を持って「これが私の実力です」と言えますか?
そこから考えてみるのが、健全化への第一歩じゃないでしょうか。