結論:多重請負は「悪」だけど、それを支える構造的需要がある
「多重請負はなくすべき」という話、エンジニアなら一度は聞いたことがあるんじゃないでしょうか。
確かに、中間マージンが積み重なってエンジニアの手取りが減る。指揮命令系統があいまいになる。労働者保護の観点からも問題が多い。
でも一方で、この構造が何十年も生き残ってきた理由があるんですよね。
今回はその「機能的な側面」にも踏み込みながら、多重請負がなぜ消えないのかを考えてみます。
根拠:数字で見る「需給ミスマッチ」の実態
IT人材は圧倒的に足りていない
まず前提として、日本のIT人材不足は深刻です。
経済産業省が公表している「IT人材需給に関する調査」(2019年)では、2030年時点で最大約79万人のIT人材が不足すると試算されています。
この数字は条件次第で変わりますが、「足りない」という方向性は変わらないというのが大方の見方です。
中小企業はそもそも採用できない
一方、IT投資をしたい企業の多くは中小企業です。
厚生労働省の「労働市場分析レポート」などでも、IT系職種の有効求人倍率は一般職と比べて高水準が続いています。
大手企業のように「正社員を自前で採用・育成する」体力のない企業にとって、SES経由でエンジニアを調達することは現実的な唯一の選択肢になっているケースも多いんです。
多重請負の「仲介コスト」はどこへ行くのか
多重請負の問題点としてよく挙げられるのが、中間マージンの不透明さです。
IPA(情報処理推進機構)の「IT人材白書」などでは、SES契約における商流の複雑化が人材育成・スキル可視化を阻害するリスクとして繰り返し指摘されています。
ただ、マージンの一部は営業コスト・契約管理・リスクバッファーとして機能している側面もあります。エンジニアが「案件を自分で取ってこなくていい」という構造は、営業が苦手なエンジニアにとってはむしろ助かるという声もあります。
反論への先回り:「やっぱり多重請負は悪だ」という意見も正しい
ここで正直に言うと、多重請負を擁護したいわけではありません。
機能的な側面があるとしても、以下の問題は無視できないです。
- 中間業者が増えるほどエンジニアの単価は下がりやすい
- 指揮命令関係があいまいになり、偽装請負のリスクが生じる
- エンジニアがどの会社に帰属しているか不明確になる
- キャリア形成の観点で「誰がエンジニアを育てるか」が曖昧になる
厚生労働省は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」(派遣法)の改正を繰り返しており、多重構造への規制強化の方向性は変わっていません。
「機能がある=許容してよい」ではないというのは、きちんと分けて考えるべきポイントです。
また、「多重請負がなければIT人材不足は解消しない」という主張も過剰で、直接雇用・内製化・フリーランス活用など代替手段は確実に増えています。
ここ数年でフリーランスエンジニアの活用が広がっているのも、その流れのひとつと言えるでしょう。
| 観点 | 多重請負の機能的側面 | 多重請負の問題点 |
|---|---|---|
| 企業側 | 採用コストゼロで即戦力調達できる | 指揮命令があいまいになる |
| エンジニア側 | 営業不要・案件が安定しやすい | 単価が下がりやすい・育成が後回しになる |
| 業界全体 | 需給ミスマッチを短期的に緩和する | スキルの可視化・人材育成が進みにくい |
補足:「消えない理由」を知ることが、次の一手になる
多重請負が消えない本質的な理由は、**「需要と供給のギャップを埋める仕組みが他にない」**という現実にあると思います。
構造を「悪だから消せ」と叫ぶだけでは変わらないんですよね。
変えたいなら、代替となる仕組みを育てるしかないわけで。
- 直接雇用できる体力を企業が持つ
- エンジニアがスキルを可視化して自ら案件を選べるようにする
- 商流の透明化を求める法整備が進む
こうした動きが積み重なって、初めて多重請負への依存度が下がっていくんじゃないかと思います。
あなた自身は今、何層目の商流にいますか?
自分の単価・商流・キャリアの見え方を一度整理してみると、次のアクションが見えてくるかもしれません。