結論:「市場価値」は便利な道具だけど、信仰するには危うい
「あなたの市場価値はいくらですか?」
この問いかけ、エンジニアなら一度は耳にしたことがあると思います。
転職サービスの診断ツール、SNS でバズる年収スレ、エージェントとの面談……あらゆる場面で「市場価値」という言葉が飛び交っています。
たしかに、自分のスキルが市場でどう評価されるかを知ることは大切です。でも、その数字を常に気にし続けることには、見えにくいコストがあると思っていて。
今回は「市場価値」という概念を少し立ち止まって見直してみたいんですよね。
根拠:「市場価値」を測る動きは、実は構造的な不安から来ている
まず前提として、エンジニアが自分の価値を気にするのはごく自然なことです。
経済産業省の試算(「IT 人材需給に関する調査」2019年)によると、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると言われています。
需要が高い市場では、当然「自分はどこに位置するのか」が気になりますよね。
ただ、問題はその測り方にあります。
厚生労働省の「労働経済の分析」(2023年版)では、転職者の賃金変動について分析されていますが、同じスキルセットでも企業規模・業種・タイミングによって年収が大きく変わることが示されています。
つまり「市場価値」は一つの固定した数字ではなく、文脈によって揺れ動くものなんですよね。
それなのに、転職サービスや診断ツールは「あなたの市場価値は○○万円」と断言してくる。
便利な反面、その数字が一人歩きして「自分の値段」として刷り込まれていく感覚、ちょっと怖くないですか。
IPAの「IT人材白書」でも、エンジニアのスキル評価は「技術力」だけでなく「コミュニケーション力」「問題解決力」「ドメイン知識」など多面的であることが繰り返し指摘されています。
単一の数字に圧縮できるものではない、ということです。
反論への先回り:「でも、市場価値を知らないと損するよね?」
ここで「いや、知らないほうが損でしょ」という反論は、当然あると思います。
それはまったく正しいです。
自分のスキルが市場でどう評価されるかを知らずにいると、不当に低い報酬で働き続けるリスクは確実にあります。
特に SES 業界では、スキルと単価の乖離が起きやすい構造的な問題があると言われています。相場感を持つことは、自衛手段として有効です。
また doda や マイナビエージェントなどの調査では、転職活動をしたエンジニアの多くが「現職より年収が上がった」と回答しているケースも多く、市場に出てみて初めてわかる自分の価値というのは確かに存在します。
なので「市場価値を無視しろ」と言いたいわけではないんです。
ただ、「市場価値=自分の価値」と等号で結んでしまうことが問題だと思っていて。
市場は常に変動します。今日高く評価されるスキルが、数年後には陳腐化することもある。
その数字に自己肯定感を全部乗っけてしまうと、市場の波に感情ごと揺さぶられ続けることになるんですよね。
補足:「市場価値」以外の軸を持つことが、長期的には強い
じゃあ、どう考えればいいのか。
私が有効だと思うのは、「市場価値」を参考情報として使いつつ、別の軸も持つというスタンスです。
具体的にはこんな軸が考えられます。
- 再現性のある問題解決経験:「あの案件で何を解いたか」は履歴書に残る
- 一緒に働きたいと思われるか:評価されにくいけど、長期のキャリアに直結する
- 自分がやっていて苦にならない仕事か:持続可能性は市場価値に換算しにくい
- 特定ドメインの深い理解:金融・医療・製造など、技術×業界知識の掛け算
これらは、転職サービスのアルゴリズムには乗りにくいけれど、長く活躍するエンジニアが共通して持っている要素だと感じています。
「市場価値」という物差しは持っておく。でも、それだけが自分を測る唯一の定規にはしない。
そのバランスが、呪いを呪いにしないコツじゃないかと思います。
あなたが今、一番大切にしている「自分の軸」って何ですか?
よかったら、自分なりの答えを一度言語化してみてほしいです。意外と、それが次のキャリアのヒントになったりします。